「予告された殺人の記録」ガブリエル・ガルシア=マルケス

  • 2020.01.14 Tuesday
  • 16:46

 

音大生の患者さまのウッシーとはもう10年以上のつきあいになります。音楽については、彼の本職であるラテンはもとより、ブルース・ジャズなど好みが合うのは分かっていたのですが、あるとき面白半分で私が読破に苦戦したフアン・ルルフォの「ペドロ・パラモ」を貸したところ、どうやらこれがドはまりしたらしく、彼まですっかり南米マジック・リアリズムの虜になってしまったのです。

 

先日のこと、その彼が治療に来た帰り際に「これどうぞ」と置いていったのが、ガブリエル・ガルシア=マルケスの「予告された殺人の記録」。140頁ほどの中編小説なので、ひまを見つけて読んでも2日ほどで読み切れました。

 

ガルシア=マルケスの「百年の孤独」については以前に書かせていただきました。私が今まで読んできた小説のなかでも強く印象に残っている作品のひとつです。

 

南米マジックリアリズムの最重要作家であるガルシア=マルケス。 しかし、今回読んだ「予告された殺人の記録」は、「百年・・・」にくらべるとマジック・リアリズム的な要素はかなり控えめ。 彼が若い頃に住んでいた、コロンビアのスクレという田舎町で実際に起こった殺人事件を題材に、事件発生から30年後に発表されました。事件には彼自身の身内や知人が事件に関係していたことから、関係者の多くが故人になってやっと小説にすることが出来たのだそうです。

 

ある兄弟が名誉を守るために知人の男を殺してしまいます。 その兄弟はコトを成し遂げるまでに、自分たちが何をしようとしているのかを何人もの人に予告します。しかしそれを聞いた人は冗談だと思ったり、ありえるハナシだと思っても被害者への警告を後まわしにしたりします。そしてほんとうに被害者の身を案じて駆けずりまわる人は、的外れな場所ばかりを探して当人の居場所にたどり着けません。

大勢の人に殺人が予告されていたにも関わらず、不幸な偶然が重なって殺人は実行に至ってしまったわけですが、そのたくさんの偶然には、妬み、差別意識、悪意や憎悪など、町の人々にゆるやかに共有されたさまざまな感情が反映していたのです。このような民衆感情の残酷さは、今現在を生きる私たちの中にも存在するもの。そこにあるブルースが乾いた文体で表現されています。

 

ガルシア=マルケスは生前、この「予告された・・・」を自身の最高傑作だと称していたそうです。もちろん自分の思う通りに書けた作品であったことに間違いはなかったのでしょう。しかし、同時に自身の作品群の中でも飛びぬけて「百年・・・」の評価が高いことも承知していたはず。

ここからは私の勝手な想像です。何かが降りてきて筆の赴くに任せて書けてしまった「百年の孤独」。作品を生み出すときも、生み出したあとの評価も自分ではコントロールできないバケモノになってしまったこの作品に、彼自身が恐怖を覚えていたのではないでしょうか。それにくらべて、自制が効いた「予告された殺人の記録」は、出来の良い息子のように思えたのかも知れません。

どちらも素晴らしいのですが、両作品を音楽に例えるなら「予告された・・・」はスタジオ盤で、「百年・・・」はインプロヴィゼイション要素に満ちたライブ盤という感じがします。

 

「百年・・・」と同じように時空を超えたトリップ感を期待するとちょっと肩透かしを食らうと思いますが、「百年・・・」がしんどくて読み切れなかった人でも、この作品からならスムーズにガルシア=マルケス沼にハマって行けるはず。ぜひ!

 

 

 

 

 

 

コメント
例によって、掲題に何の知識もない私です。只今検索で得たばかりの資料ですが、著者ガルシア=マルケスは1927年〜2014年と有りますから1929年生まれの私と同世代を生きています。そして「予告された殺人・・」の発表は1981年、モデルとなった実話がその30年前となりますと、これは朝鮮戦争の最中である1951年になります。何故こんな詮索を書くか?というと、殺人を成立させた民衆感情(残酷な)というものが、口コミオンリーの当時と、現在のようなネット駆使の時代では、かなり動きが違うのではないか?と思うからです。ではまた。
  • 山野隆康
  • 2020/01/17 4:47 AM
山野さま
1951年。大戦の後でまだ世界中に落ち着きがなかった時代ですね。まだ私も生まれていません。
人は見たいものしか見ないし聞きたいことしか聞かないものであるということは今も昔も同じ。ネット環境下において、残酷な民衆感情はより増幅してしまう傾向にあるような気がします。
あふれる情報が多様性の尊重につながって行くといいのですが、、
  • 松本
  • 2020/01/17 10:42 AM
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