NHK「東洋医学 ホントのチカラ」
- 2018.09.28 Friday
- 12:00
先日放送されたNHK「東洋医学 ホントのチカラ〜科学で迫る 鍼灸・漢方薬・ヨガ〜」を見ました。
番組の前半部は鍼治療の紹介にかなり長い時間が割かれていました。
いや、期待し過ぎました。「科学で迫る」のふれ込みでしたが、ふたを開けてみるとよくある健康番組の鍼治療の取り上げ方と同じで「この経穴(ツボ)に刺激を加えればこういう効果が得られます」的な、パフォーマンスで視聴者の関心を引く構成でした。
以前、NHKでは鍼治療の作用機転の新発見について紹介していました。 従来の説では、鍼が筋肉を緩める作用が強いのは、皮下に鍼や灸の侵害刺激が加わると、白血球やリンパ球などの免疫系を遊走させるためにフレッシュな血流が患部に届くので、疲労物質や発痛物質の排出がスムーズになる。すなわち血行が促進されるためと言われていました。
しかしその番組では「ツボを刺激すると筋肉が自分自身を緩める化学的な成分を放出するから」という新説を紹介していました。 その時点ではまだすべてが明らかになっておらず、近い将来にきちんとした学説として発表されると聞いたように記憶しています。
きっと、その説の全容が紹介されるのでは!?とワクワクしながら帰路を急いだのでしたが、、
私の空振りはさておき、やはりテレビ番組の短い時間で視聴者に東洋医学を理解してもらうのは無理があるなとも感じました。
番組では、鍼灸治療において治療の指針になるのは気血の流れを表した「経絡」という考え方だと紹介されていました。
しかし、実際にはインフォームド・コンセントが当たり前のいま、現代の科学で解明されていない経絡のみを治療の根拠とする治療家はそれほど多くないと思います。
私も鍼師になった頃は、治療に窮すると古典的な理論に頼ることもありました。 しかし長年治療を続けていると患者さまの筋肉や関節の痛みの多くは日常的な身体の使い方に原因があることが分かって来ました。 重力バランスや呼吸法の乱れ、頭や手足が先に動いてしまう末梢主導の動きによる負担が積み重なって不調につながるケースがとても多いのです。
患者さまの身体の使い方の問題点を診れるようになると、その動きの中で過剰な負担にさらされる箇所の連鎖が診れるようになります。その連鎖が経絡と重なるのはとても興味深く、おそらく先人たちもそのような経験から経絡という考え方を編み出したのではないかと想像します。
経絡図は、経験の浅い治療家がその必然を理解しないまま図を頼りに治療箇所を決めても、ある程度の効果が期待できるところにその素晴らしさがあると思っています。 あるいは辺境の地の無医村などにおいても経絡図はおおいに活躍したことでしょう。
経絡については現代医学的な検証を重ねて研究を続けている先生もいらっしゃるので、今後の成果に期待したいと思います。
私が鍼師になった頃は、西洋医学の先生の中には東洋医学を「根拠のない野蛮な治療」と考える方が多く、それに対し東洋医学の治療家は「歴然とした効果が認められるのに理論的に説明できないのは西洋医学の限界」と反発していました。
最近では、大きな病院のペインクリニックなどにも鍼師が常駐しているところが増えていると聞きます。 とても好ましいことですね。
やっぱりどんな世界でも、仲良くするとみんながしゃーわせになれますね(^^)
私の母親もよく自分で灸をすえていましたっけ。悪さをすると「灸すえるぞ!」とおどされたことを思い出します(^^;
誰かがすっかり謎解きしたものにはそれほど興味をそそられないので、治療家としては不謹慎かも知れませんが東洋医学はいつまでもビミョーなあやしさを残したままでいてほしいと思っています。
治療は患者さまの身体や心の在り方に合わせたオーダーメイドのようなもの。着心地のよい身体作りの職人でありたいものです。